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黙っていれば申し分ないくらい格好良いのに。

一度もそう思った事がないのかと聞かれれば、答えはノーだけれど。
ころころと表情を変える整った顔であったり、喜怒哀楽をそのまま音に乗せる涼やかな声であったり。細いように見えて案外太いその腕が、一生懸命身ぶり手ぶりで何かを伝えようとしている所を見ているのは、案外嫌いではないのだ。

マジバのバニラシェイクを啜りながら、黒子はぼんやりとそんな事を考えていた。

そう、彼は、黙っていれば申し分ない程に格好良い。
その現実をまざまざと見せつけられているようで、黒子の眉間に皺が寄る。

目の前には、さらりとした甘いきんいろの髪を揺らし、これまた甘い笑顔を浮かべる自分の彼氏。
しかしその視線の先に居るのは、自分ではなく、彼のファンだと言う数名の少女達。

綺麗に結い上げられた栗色の髪が彼女達の声に合わせて揺れる度に、黒子の眉間の皺はどんどん深いものになっていった。
ずずず…と、音を立ててシェイクを啜る。
恋愛に不器用な黒子なりの精一杯の自己主張。

(黄瀬、くん)

心の中で何度彼の名前を呼んでも、気付く訳がないのに。

(黄瀬くん)

それでも呼んでしまう自分は、ああ何と女々しいのだろう。

周りの人達は、黄瀬ばかりが黒子を好いているように捉えているが、案外そんな事はないのだ。
今も黒子の胸の中にはもやもやとした黒い感情が燻っていて、空をそのまま融かしたかのようなスカイブルーの瞳は、胡乱気に細められている。

「……黄瀬くん、」

ようやっと口から出た言葉は、酷く小さかったけれど。
か細い黒子の声に黄瀬は勢い良く反応を示し、主人に呼ばれた大型犬よろしく嬉々とした瞳で黒子を捉えた。

カコン、

空になったシェイクのカップをトレーの上に置く音が、いやに耳につく。

「…僕、今日はもう帰りますね。黄瀬くんもお忙しいようですし」

「……えっ…、くろっ」

「では、失礼します」

黄瀬と目を合わせないようにやや俯きながらトレーを持ち上げ、立ちあがる。
紡がれかけた言葉を無理矢理遮り、黒子は意識して己の存在を薄め、その場を後にした。





                 →続





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