【冬の夜】 冬の夜。外は木枯らし。粉雪が舞う。闇の中空で笛のような風の音が走り去るとともに、雨戸にサッと粉雪の刷毛。凍り切った自然のざわめきのなかにも、シンとした静けさがしみとおって、思わず居ずまいを正したくなる。 いろいろなことが頭に浮かび、まとまりもなく流れてゆく。幼き日の一コマであったり、大動乱のあの日のことであったり、去りし日の父母の顔であったり昨日の友の顔であったり、音なく声なく言葉なく流れゆく。走馬灯とはこのことか。 シンシンとしのびよる底冷えのなかで、思わぬ身ぶるいが背すじを走り、肩をすぼめる。無性に人が懐かしく、そして春が待ち遠しい。あの陽光のぬくもり、あの樹々の新芽のなごやかさ。あの日はいつくるのか。 だが待たねばならぬ。耐えねばならぬ。いかに思いにかられても、いかに待ち遠しくとも、耐えねばならぬときには耐えねばならぬ。居ずまいを正して、耐えることだけがこの冬の夜のたたずまいである。そして、人は冬の夜に、自然に耐え、人生に耐えることの尊さを、しみじみと学ぶのである。 03:00 コメント(0) [コメントを書く] <<重要なお知らせ>>@peps!・Chip!!をご利用頂き、ありがとうございます。
[編集] |